ありえない鳥が教えてくれること / Antique Desktop Drawers with Black Swan

英国アンティーク、黒鳥の絵がついた木製小抽斗。




英国で行われていた大きなマーケット。

様々な品物が並ぶ中で、渋い親爺殿が睥睨するストールは、道具類や工具、木小箱などがならび、他とは少し違った雰囲気をだしていました。
そこで私が気になったのが、今回ご紹介する木製の小抽斗。いえ、抽斗、と呼んでいいか悩む構造ではあるのですが、外観は普通の抽斗に見えるものでした。

特徴的なのは天板にW.A.という文字と共に黒鳥が描かれていること。親爺殿に断りつつ、抽斗を開けてみようとする私に彼は言いました。

「私はそれについては何もわからないよ!」

何のことだろう、と思いつつ小さなツマミをもって引き出せば、それは普通の深さのある抽斗ではなく、単なる板でした・・・。思わず親爺殿を見れば「ほら言っただろう」みたいな顔をして、肩をすくめる仕草。


本当にこれ、何なのだろう・・・。



疑問は解決できないままでしたが、美しい杢目のマホガニー材を使った丁寧な作りの箱であることは間違いありません。天板の黒鳥もなんだか可愛らしく、忘れがたい存在感に負けて手に入れてしまいました。


じっくり調べてみれば、まず黒鳥とW.A.の意味はほどなくわかりました。「W.A.」は「Western Australia(西オーストラリア州)」の意味。そして黒鳥はオーストラリアに生息する固有種であり、西オーストラリア州の州を象徴する鳥です。ちなみに西オーストラリア州の紋章はシールドの中に黒鳥、左右にカンガルーという構成になっています。


英語にはかつて、無駄な努力を表す言葉として「黒い白鳥(ブラックスワン)を探すようなものだ」ということわざがありました。それほど黒い白鳥はいないと信じられていましたが、1697年にオーストラリアで黒鳥が発見され、当時の人々は大変驚いたそうです。この発見以降、「常識を疑うこと」「物事を一変させること」「自分を絶対視しないこと」の象徴として使われるようになったといいます。


さて、それほど「ありえない」鳥であった黒鳥。それがなぜ英国で手に入れたマホガニーの木箱に描かれているのでしょうか。

英国南部、デボン州に「Dawlish/ダウリッシュ」という海辺の町があります。ここに1906年、オーストラリアから黒鳥が輸入されました。それ以前も観賞用として多くの黒鳥がヨーロッパに移されましたが、移された地で繁殖し、名物となっているのはダウリッシュが筆頭であるようです。一時は町の紋章ともなっており、現在でも黒鳥の小さな群れは町の人々に大切にされています。

・・・ということで、推測ではありますが、この小抽斗はダウリッシュに由来するものなのではないかと思います。




そしてもうひとつの疑問。

この「引き出せる板」は何のためのものか、ということ。


まず思い出したのは英国アンティーク家具のひとつ、ミュージックキャビネットです。ミュージックキャビネットのなかで時折見かけるのは、抽斗をひきだすと、前板が倒れ、抽斗の底板の断面がみえる、という物。ここに楽譜を入れれば、手前から簡単に取り出すことができるのです。薄く平たい物を取り出すには、立ち上がり板は邪魔、ということ。


ここでサイズを確認してみましょう。前板以外の平たい部分の幅は約12.3cm、奥行きは20.9cmです。ちょうどポストカードやキャビネ判(12×16.5cm)を仕舞うのにちょうど良いサイズです。


英国において19世紀末の写真は、硬い板紙に貼り付けられた「キャビネットカード」といわれるものが主流でした。約5.5x4インチのペーパープリントを、6.5x4.25インチ(16.51×10.795cm)標準サイズのボール紙マウントに貼り付けたものです。その後もっと小さな手札サイズに変化し、さらに後には「写真はがき/photographic postcard」が台頭していきます。現代でいう「キャビネ判」サイズがいつから一般的に使われるようになったのかは断定できませんでしたが、名前自体、「キャビネットに飾るのによいサイズ」からきているという説もあり、やはり英国発祥なのではないかと推測いたします。




この小抽斗は、おそらく写真やハガキなど、薄いものを仕舞う為のものだったのではないでしょうか。そのためだけに、このような構造にした特別な品物。

ダウリッシュを象徴する黒鳥が施された小抽斗は、その町を愛する人の特注品だったのかもしれません。町の風景を映したポストカードをたくさん入れていたのではないでしょうか。


試しに英国の古いポストカードを入れて、写真を撮ってみました。横から指を差し込みやすく、確かに取り出しやすい気がします。

薄い紙物を仕舞うのに最適な小箱。
もちろん工夫次第で、小さなアクセサリーやチケットなど、コレクションを納めるのにこのうえない舞台装置となってくれそうです。

デスクトップに置き、ありえない鳥、黒鳥を眺めながら、その古い諺に想いを馳せてみる。
英国アンティークの珍しい佳品をお手元でご堪能ください。



こちらからも画像をご確認いただけます。


◆England
◆推定製造年代:c.1906年以降、20世紀前半。
◆素材:マホガニー
◆サイズ:幅約14cm 奥行き約23.6cm 高さ約6.2cm
◆重量:530g
◆在庫数:1点のみ


【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色、材のワレ等がみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。

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322-043

25,000円(内税)

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**ご来場有難うございました**


12月1日(日)
大江戸骨董市
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9-16時
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(出店予定)


12月7-8日(土日)
谷中骨董市
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東京都荒川区西日暮里3-10-1
10-16時
(7日は当店は15時まで)
天候により中止あり
(出店確定)


12月15日(日)
大江戸骨董市
有楽町東京国際フォーラム
9-16時
当店は14時撤収開始
天候により中止あり
(出店予定)


【ご注意】
大江戸骨董市は終了時刻が16時ですが、当店は手持出店のため、終了時刻には全て片付けている状態の完全撤収が求められています。当店は細かい物が多く時間がかかるため、2時間前には撤収を開始いたしますので、どうかご了承ください。大江戸骨董市はお早めのご来場をおすすめいたします。